猫と宇宙と音楽と

宇宙開発・ビジネス発展の礎。我々は過去を踏み台に今を生き、また未来の礎として今を生きる。

JAXAシンポジウム2018@有楽町(2018.7.5)に行ってきた(2)

こんにちは。wakuphasです。

 

前回に引き続き、JAXAシンポジウム2018「Discovery NEW! with new JAXA」のまとめ記事です。

以下目次です!

 

 

1. JAXA活動紹介(ビデオ)

2. 第4期中長期計画について(山川宏 JAXA理事長)←前回

3. 宇宙観測探査船団の構築について(國中均 ISAS所長)←前回

4. BepiColomboの最新状況について(早川基 ISAS BepiColomboマネージャ)←本記事

5. パネルディスカッション「宇宙開発・探査の意義と課題について」←本記事

 

 

BepiColombo計画について

BepiColomboベピコロンボ)とは、日本とヨーロッパ(European Space Agency(ESA):欧州宇宙機関)と共同で計画中の水星探査ミッションの名前です。

共同といってもいろいろな形がありますが、今回はJAXAESAで別々の探査機を開発し、一緒に飛ばそうぜ!というものです。

 

具体的には、以下のようにミッションを分担しています。

 

JAXA

・日本の得意分野である磁場・磁気圏の観測を主目標とする水星磁気圏探査機MMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)の開発

・水星周回軌道における運用

 

ESA

・水星の表面・内部の観測を行う水星表面探査機MPO(Mercury Planetary Orbiter)の開発と運用

・打ち上げから惑星間空間の巡航、水星周回軌道への投入

 

このような協力体制の下、1+1=10を目指してプロジェクトが進んでいるようです。 そういえば最近MMOは公募によって「みお」という愛称になりましたね。

 

 

水星は、太陽に近い灼熱環境と軌道投入に要する多大な燃料から周回探査は困難で、過去の探査は米国マリナー10号の3回の通過(1974~1975年)のみでした。 この時、金星を通過してその重力でスイングバイを行うことによって何回か水星に接近できることを示唆したのが、イタリアの著名な天体力学者ジウゼッペ・コロンボ博士で、新しい水星探査ミッションの名前には博士の愛称である「BepiColombo」が使われています。

 

ちなみにマリナー10号の観測以前、水星はその見た目から地球の衛星である「月」と同じような性質だと思われていました。しかしマリナー10号によって水星には磁場と磁気圏活動があることが発見され、月とは全く異なる天体であることがわかりました。

こうして科学者たちを良い意味で裏切った水星ですが、1975年以降そのミッションの難易度から探査は行われていないため、今回のプロジェクトは非常に期待されているとのことです。

 

 

パネルディスカッション「宇宙開発・探査の意義と課題」

さて、本講演の目玉といってもよいパネルディスカッションについてまとめていきたいと思います。

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まず、パネリストですが、以下の6人プラス司会進行役の室山哲也氏(NHK解説委員)で行なわれました。上画像左から

  • 山崎 直子氏(宇宙政策委員会委員、宇宙飛行士)
  • Mr. Ted McFarland(Blue Origin アジア太平洋地区ディレクター)
  • Ms. Anita Bernie(SSTL 探査ミッション/機関連携部門ディレクター)
  • 落合 陽一氏(筑波大学 学長補佐)
  • 袴田 武史氏(株式会社ispace代表取締役
  • 山川 宏(JAXA理事長)

 

そうそうたるメンバーですが、特に宇宙業界の講演に落合陽一さんが現れることは珍しく、会場全体もその一挙手一投足に注目していました。

 

ちなみに詳しい講演内容を知りたい方は、動画(2時間30分程)としてアップロードされているのでこちらを。

youtu.be

 

 

宇宙開発・探査の「意義」

意義、これかなり大事で、ビジネスとか事業とかって人への伝え方次第で協力者の数とか、出資額が変わってくると思います。

その意味で、宇宙業界側の考える意義と、大衆の考える意義のすり合わせの場としてこのディスカッションはとても重要だと思います。

 

議論に上がっていた意義としては以下のようなものがありました。

・新たな雇用の創出

・宇宙資源の活用

・宇宙経済の発展

・人類の生活圏の拡大

・地上の汚染物質の廃棄

 

 

私自身は、宇宙開発の意義は短期的なものと長期的なものがあると考えています。

 

短期的衛星データ利活用による社会規模、地球規模の課題解決

宇宙への輸送技術や衛星観測・解析技術が向上してきた現在、以下のようなものが考えられます。

通信衛星、陸域・海域観測衛星による防災インフラの構築

・通信弱者地域への通信網の普及

・農業や漁業など衛星画像を利用した新しいビジネスの創出

 

長期的人類の生活圏拡大、先端技術の地上へのフィードバック

いわゆる科学探査などは世間的には、その意義を感じ取りにくいため、おそらく予算や出資を取りやすいのは、上記の短期的な目的の方でしょう。

しかし人類は知的好奇心を元にここまで発展してきた生物であることを忘れてはなりません。たとえ今地球に住めないという状況下でなくとも、宇宙に行きたい、宇宙で生活したいという思いはその損益に関わらず、頭に存在しているはずです。

ただ知りたい、行きたいという純粋な欲の先にこそ、イノベーションがあると思います。落合さんも「何が起こるか予測できるのなら、それはイノベーションとは呼ばない」とおっしゃっていましたが、この気持ちを行動に移すことこそが、今の宇宙開発に必要なエッセンスなのでしょう。

 

実際、宇宙を知りたいという純粋な知的探求心、古来より行われてきたあくなき追求は結果としてその過程で得た技術や知見を元に、人類にとてつもなく大きな利益をもたらしています。

例えば衛星は非常に狭い空間の中、省電力かつ高性能でなければならないため、必然的に最先端技術が生まれます。この技術は地上における医療機器や環境計測の分野へとフィードバックされているのです。

 

 

宇宙開発・探査の「課題」と「解決」

(1)民間と政府の役割分担

ここが意外と鬼門で、これまで9割近くを官需に依存していた構造から、いきなり民間に全て委託することは、現実的には難しいと思います。

ただ、大貫美鈴 著「宇宙ビジネスの衝撃」刊行記念イベント@池袋(2018.6.7)に参加してきた(1)で記しているように世界全体ではすでに民需が80%近くを占めています。確実に民間は力を付け、近い将来民間に頼らざるを得ない産業構造に変化していくことは必至です。

 

そこで課題となるのが、国 (JAXA内閣府等) と民間はどう棲み分けるべきなのか、という問題です。

すでに答えは出かかっていますが、ざっくり言うと

内閣府ベンチャーや民間分野の事業支援の制度を作る

JAXA:ハイリスクで利益の出にくい基盤技術の研究を行う

民間JAXA等から技術を受け継ぎ、実際に人々が使えるようにサービス化

という線引きがなされていくと思います。

間違えてはいけないのが、それぞれが競合ではなく、協力の関係にあるという点です。

 

(2)宇宙開発はハイリスク、高コスト

現在、Space Xを始めとして再利用ロケットの開発が活発化し、低コストで打ち上げが可能になりつつあります。とはいえ一回数十億はかかるわけで、普通の民間企業ましてや、スタートアップが気軽に利用することは難しいのが現状です。

また実際にサービス化できたとしても本当にビジネスとして成立するかはやってみないとわかりません。そんな中で、確かなビジョンを掲げ、明確な計画と共に事業構想を持っている人がVCからお金を得ているわけです。

しかしこれはBtoCの話で、BtoG (Gorvenment) と顧客を変えれば成立する可能性はあります。特に月探査計画などは、政府だけではとても実現不可能であり、実践的な技術力を要します。すなわち民間が探査プロジェクトに入り込む余地はかなり大きそうです。

上記でハイリスク高コストは国が管理するべきというような書き方をしましたが、国は民間の協力を欲しているというわけですね(以下参照)。

国際宇宙探査に関するワークショップ@八重洲に参加してきた (2018.6.11) - 猫と宇宙と音楽と

 

(3)法整備

宇宙に関する法規制はまだまだ未整備であり、宇宙には国境があるわけでもないのに、国や団体によっても食い違いがよくあります。実際宇宙開発は戦争と共に成長してきたのも事実なので、慎重にならざるを得ません。

またこれに関しては新事業推進と法整備どちらを先にやるべきということではなく、事業者と政府が共に歩きつつ、すり合わせていく必要があります。例えばここ数年の仮想通貨を取り巻く環境の著しい変化を見てもそれは明白です。

 

(4)議論を深めるコミュニティ作りが大切  

宇宙開発はこれまで圧倒的に国主導で行われてきた側面もあって、民間事業者同士のつながりはあまりありませんでした。しかし最近は様々な宇宙界隈をつなぐコミュニティが出来つつあります。

 

宇宙ビジネスのプラットフォームとして日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催しているSPACETIDEはその最たる例です。

www.spacetide.org

 

また宇宙事業を始めたいけど知識がない、という方向けにも宙畑を始め、様々な宇宙ビジネス情報プラットフォームがあります。

sorabatake.jp

 

内閣府が主導しているS-NET 宇宙ビジネス情報ポータルサイトは「宇宙」をキーワードに新産業・サービス創出に関心をもつ企業・個人・団体などの活動を支援・創出するネットワーキング活動です。

www.uchuriyo.space

 

S-NETのビジネス窓口として設置された宇宙ビジネスコートは、宇宙ビジネスを始めたい方へのコンサルから、衛星データ利用の勉強会なども開催しています。

www.bizcourt.space

 

 

以上で、JAXAシンポジウム2018のまとめを終わります。

このシンポジウム自体もJAXAが確かに産学官連携の場作りに力を入れている証拠であり、日本全体として着実に変化を肌で感じ取ることができる、そんな講演でした!

 では。